こんばんは。おはよう。

この前あなたのビートシートを見たとき、私は「これは120分の映画にもなりうる」とまず思いました。映画が長編になるためには要素がたくさんある必要はなく、強力な「キメ」がありそこに向かって物語が収斂していくほうが自然だからです。

そこで私が思い出していたのは『扉をたたく人』(The Visitor, 2008)という映画でした。(今確認したらUSアマゾンで3.99ドルで配信していました)

妻を亡くし仕事も不調で単調な日々を送る60代の大学教授。出張で数年ぶりにNYに借りているアパートのドアを開けると、なんと見知らぬアフリカ系のカップルが勝手に住みついています。すぐに出て行かせるのも悪いのでしばらく同居することになりますが、逆に陽気なアフリカンにジャンベ(太鼓)の奏法を教わることに。有名な俳優は出ていないインディーズ映画で、全米たった4館で公開の小規模な作品でした。

ところが瞬く間に評判が広がり、公開は全米270館にまで拡大しました。あれよあれよという間に観客の支持を獲得し、6ヶ月のロングランに。61歳にして映画初主演のリチャード・ジェンキンスはアカデミー主演男優賞にまでノミネートされることになりました。

監督・脚本を務めたトム・マッカーシーはインディペンデントスピリット賞の監督賞を受賞。その才能は7年後に『スポットライト』で世界の知るところとなります。

『扉をたたく人』は脚本も素晴らしいのですが、ある意味陳腐なストーリーではあります。生きがいを失った老人がふとした出会いから生きる気力を取り戻す、よくある話ですね。

ところがこのストーリーは、すべて最後の強力なキメのワンショットに収斂していきます。このたった1つのモチーフのためにそれまでの2時間があったのだと気付かされます。ラストカットが観客の心に刻まれた瞬間、もうその映画は忘れられない作品になります。

この「キメ」はサスペンスのどんでん返しのことではまったくありません。「オチ」や「謎解きの答え」でもありません。最近だとメキシコのミシェル・フランコ監督の『父の秘密』もラストの長回しにそれまでのすべてが集約される映画でした(カンヌ映画祭ある視点グランプリ)。


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